株式会社JMC
CTスキャン実施にあたり、オオサンショウウオに関する研究者・関係者の方々からコメントを頂戴しましたので、ご紹介させて頂きます。

(団体名 五十音順に掲載)
NPO法人日本ハンザキ研究所 理事
田口勇輝 様
オオサンショウウオのCTスキャンという取組みについて
オオサンショウウオは国の特別天然記念物に指定され文化財保護法で保護されており、個体に触れるにも許可申請が必要です。また、希少種で夜行性動物であることから、個体を発見して調査することも容易ではありません。今回のCTスキャンデータや、広島市安佐動物公園が出版しているオオサンショウウオの解剖図説などを参照することで、より詳細な体の構造を知ることができ、今後の研究や、個体の治療などの保護にも役立つと思います。また、研究以外にも、その美しい内部構造を見るだけで面白みがあり、近年注目されている透明標本のような鑑賞的価値や芸術的価値もあると感じます。
標本を内部まで詳細に3Dデータ化してみて分かったこと
オオサンショウウオは軟骨が多く、骨格標本を作る際には骨がバラバラになってしまうため、実際の形態のとおりに骨格標本を組み上げることは極めて困難です。CTスキャンでは硬骨部分のみが「骨」として再現されており、その骨と骨の間にあるだろう軟骨部分が3Dデータから想像することができます。なお、オオサンショウウオは下顎を左右独立して動かすことができ、餌を飲み込む際に役立ちます。スキャンデータから下顎が中央で分離していることが分かり、このことを可能とする様子が見てとれます。
今後の研究・調査での3D技術の活用や将来性など
とりわけ、オオサンショウウオは初期の両生類の形態を今に留めているため、進化に関連した形態学の研究にとって3D技術の活用が期待されています。実際、私が関わっている、大学や自然史博物館との共同研究でも、CTスキャンを活用したいくつかの研究が進められている最中です。デジタルデータ上で、標本の長さや体積、構造などの物理データを計測することができるようになり、実際の標本を直接計測していたころには出来なかった詳細なデータ取得が可能となります。今回再現されている硬骨部分の骨データだけではなく、軟骨部分の骨も再現できれば、体内構造がより理解されて研究が進むことと思います。
北九州市立いのちのたび博物館
江頭幸士郎 様
オオサンショウウオのCTスキャンという取組みについて
これまでオオサンショウウオについては,天然記念物という制度上,手厚く保護されるいっぽうで,研究者でも生体や良好な標本にアクセスするのが難しく研究が進みにくいという側面もありました.特に臓器や交連状態の骨格は,かつては新鮮な死体や液浸の標本を解剖することでしか確認することができず,両生類の専門家でも見たことのない方が少なくないと思われます.今回,このように全身の精細なスキャンデータが公開されたことは,これ自体が新たな発見を生むものではないかもしれませんが,今後のオオサンショウウオの研究進捗に寄与するでしょう.
標本を内部まで詳細に3Dデータ化してみて分かったこと
外見でははっきりは見えなかった頭部の骨折が,スキャンデータで確認されました.これがこのオオサンショウウオの直接の死因かどうかはわかりませんが,骨折が治った跡が見られないことから死亡前後に生じたものであるのは間違いありません.その他,骨格についていえば,たとえば手足など関節の隙間が大きく開いているように見える個所が見られます.これは,CTスキャンに写りやすい硬骨の隙間のかなりの部分を,写りにくい軟骨が補っていることを示しています.遺体から硬骨だけを取り出した従来の乾燥骨格標本では再現が難しい,実際に生きているときの状態に近い骨格の様子を見て取ることができ興味深いです.
今後の研究・調査での3D技術の活用や将来性など
オオサンショウウオは制度に守られているため個体を開腹できる機会は限られています.また良好に保存されている標本についても,標本の点数が少なく貴重であるため,よほど明確な目的がなければ所有者が開腹を認めない場合が少なくないでしょう.
CTスキャンおよびそのデータの3D化は,生体や標本をほとんど傷つけることなくその内部を調べられ,かつ得られた情報を現場に立ち会っていない人間ともシェアできる点が特色と言えますから,オオサンショウウオのような貴重な生物の体内を調べるのに適した手法の一つとなり得るでしょう.今後,多くの標本のスキャンデータを蓄積できれば,今回の一個体だけでなく,オオサンショウウオ全般の内部構造の理解につながると期待できます.
北九州市立いのちのたび博物館ホームページ
広島大学総合博物館 准教授
清水則雄 様
オオサンショウウオのCTスキャンという取組みの面白さと可能性について
拝見した第一印象は純粋に「美しい」と思いました。
生物が創る形は長い進化の歴史を通じて選択されてきたものだけに洗練された美しさを感じます。特に骨のデータは通常の骨格標本では見ることの出来ない細部まで瞬時に拡大観察でき、様々な角度からその詳細を観察することが可能となっています。私もついつい童心に帰り「あ〜でもない。こうでもない。ホウホウ!こうなっているのか!」などと興味深く拝見しました。このような体の構造、機能の可視化から移動能力や捕食能力などの生態学的な行動の理解を裏付ける情報を得ることも可能でしょう。本データからも本個体の死因に関する情報(下顎の骨折痕)や胃内容物情報を得ることが可能です。
また、データベース化を行うことで異なる種類の生物との比較も可能となり、構造や行動の機能理解の増進に繋がることが期待されます。

さらに、教育的見地から考えると、博物館などの社会教育施設には“手にとって触れることのできる展示”すなわちハンズオン展示があります。子どもたちにはこのハンズオン展示が大変人気なのですが、通常、剥製や骨格標本は高価なので一部の標本でしか実施することができません。特に国の特別天然記念物であるオオサンショウウオは許可なく触れることさえできない希少動物ですので、その形状や骨格に触れ合うことはなかなかチャンスがないかと思います。このようななかでCTスキャンデータから2色モデルを出力し、ハンズオン展示や授業などで利用することは実際に目で見て、手で触れる体験型教育を通じた理解の増進に役立つと思います。近年、医療用の3Dプリンターで見られるようなゴム系プリンターにて肌の触感を忠実に再現することも可能かもしれません。
CTスキャンを活用した3Dデータの公開は、これからの調査研究・教育普及活動に新たな可能性を投げかけている素晴らしい事業だと思います。
広島大学総合博物館ホームページ
コメントを頂きまして誠にありがとう御座いました。
また今回の取り組みには、非常に多くの方にご協力いただきました。皆様に感謝申し上げます。

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